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大阪高等裁判所 昭和24年(ム)1号 判決 1949年11月30日

再審原告

浅津〓夫

再審被告

大阪市長

主文

本件再審の訴はこれを却下する。

訴訟費用は再審原告の負担とする。

事実

再審原告(以下単に原告と呼ぶ)は大阪地方裁判所が昭和二三年(行)第四三号事件について同年一二月二一日言渡した判決及び大阪高等裁判所が右第一審判決に対する昭和二四年(ネ)第三八号事件について同年五月二五日言渡した判決を取消す、再審被告(以下単に被告と呼ぶ)が原告に対して、昭和二二年四月一日なした勤務替処分(転任処分)及び同年七月一八日なした懲戒処分並びに同年一二月一〇日なした休職処分がそれぞれ無効であることを確認する、訴訟費用は全部被告の負担とするとの判決を求め、被告は主文第一項と同旨の判決を求めた。

原告が再審事由として主張するところは左のとおりである。

一、本件確定判決のなされた訴は客観的併合の訴であつたのに第一審はその一つを附帯的請求と認めて、ちよう用印紙に不足があるのに追ちようを命じないで本案の判決をなし、控訴審もまた控訴状のちよう用印紙に不足があるのをかん過して本案判決をなした。

二、被告は昭和二二年法律第一九四号により法務総裁の指揮を受けていないのに、その所部の職員大阪市主事大重正俊、同書記横谷義人を指定代理人とし、訴訟代理権のない者をして、第一、二審の訴訟を為さしめ、第一、二審もまた被告の訴訟代理権にけんけつがあるのをかん過して各判決をした。

三、休職処分が原告に告知せられたのは昭和二二年一二月一〇日であつて、告知前には休職処分は成立するによしがないから、第一、二審が同年一〇月二八日原告に対する休職処分があつたと認定したのは法理、判例に反する。

四、第二審が国家公務員、地方公務員は契約又は合意なくして任用処分(転任処分)をなし得ると判断したのは法理に戻り、裁判に影響を及ぼすべき重要な事情についての判断を故意に遺脱しておる。

五、証人の虚偽の陳述が第二審判決の証拠となつておる。但し民事訴訟法第四二〇条第二項の事実があるとはいわない。

被告指定代理人は主文第一項同旨の判決を求め、原告主張事由は何れも再審事由とならないと述べた。

理由

原告主張事由は何れも再審事由にあたらないことは原告の主張自体に徴し明白である。従つて駄足と思うけれども、念のため、二三の点について補足的な説明をする。

第二の事由について、

本件は国又はその行政庁を当事者とする訴訟ではなくて、普通公共団体たる大阪市を、その長として、代表する被告大阪市長を被告とする訴訟であることは原告の主張上明白である。ところで地方自治法第一四七条によれば普通公共団体の長は当該普通公共団体を統轄し、これを代表すると規定しておるから、その普通地方公共団体の長はこれを代表して、訴訟行為をなし得ることは当然である。そこで同法第一五三条は普通公共団体の長はその権限に属する事務の一部を当該公共団体の吏員に委任し又はこれをして臨時代理させることができるとのみ規定し、別に訴訟行為を除外していないから、普通公共団体の長は、この法律の明文によつて、その吏員をして、特定訴訟の訴訟行為を行わせることができること勿論である。従つて本件第一、二審において、被告が指定代理人をして訴訟行為を行わせたのは正当であつて、第一、二審において被告の訴訟代理権のけんけつをかん過した違法はない。

第三の事由について、

第一、二審において被告が昭和二二年一〇月二八日原告に対し休職を命じたと認定したのは、原告において同年一二月一〇日告知を受けたと自認するし、被告においても明らかにこれを爭わない休職処分は、一〇月二八日被告において原告に対し休職を命ずる意思決定をしたという趣旨であつて、同日休職処分が成立したというのではないこと、判文上明白である。

第四の事由について、

第二審は普通公共団体の公務員を任用するにはその公務員の申出又は承諾を要しないと判断しておるのではなく、單に本件のような勤務替を命ずるのは任用処分でも転任でもなく、内輪の事務分配に過ぎないから、その公務員の同意を要しないという趣旨の判断をしておるに過ぎないこと判文上明らかであつて、ほとんどいうをまつまでもないことであるばかりでなく、これだけでは原審はこの点について第二審判決に影響を及ぼすべき重大な事項について判断を遺脱しておるものとはいわれない。のみならず右各事由は原告において何れも上告によつて主張し得たものといい得るところ、原告の上告はすでに却下せられ、又原告は第二審において請求の趣旨を変更し、その主張する各処分の無効確認を求め、第一審において提起したその主張の各処分の取消を求める訴を取下げたことは記録上明らかであるから、原告が第一審判決の当否をかれこれいうのはあたらない。

何れにしても原告は右各事由を主張する機会を失つておる。

以上説明のとおりであつて本訴は不適法であるから民事訴訟法第八九条により主文のとおり判決する。

(裁判長判事 石神武藏 判事 林平八郞 判事 大田外一)

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